GIARI全体
研究:出版物:Asian Regional Integration Review (ARIR)
“Asian Regional Integration Review Vol. 4 ” 刊行
2012.03.09
編集長より Editor
赤羽 恒雄
2011年3月にAsian Regional Integration Review Vol. 3が出版されて以降、アジア地域統合のプロセスは著しい進歩を遂げているが、それと同時にいくつかの困難な障壁もある。アジア諸国間で拡大している域内貿易の影響を受け、市場主導型の地域統合は深化してきた。 2007年6月に締結された韓米自由貿易協定(ROKUS FTA)は、2011年10月米国連邦議会にて承認され、2011年11月には韓国の国会で批准された。これに続いて、当初は2005年6月にブルネイ、チリ、ニュージーランドにより締結された21世紀の環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に向けた交渉に、日本が、米国、オーストラリア、マレーシア、ペルーに加えて参加すると発表した。東アジアサミット(EAS)は、2005年12月にクアラルンプールに集まったオリジナルメンバー16カ国から、2011年11月にインドネシアのバリで開かれた6回目のサミットでは米国とロシアも加わり、18カ国に拡大した。2008年以降の世界金融危機は、多くのアジア諸国の財務の健全性を脅かし続けた。近年、6人の首相が次々と交代した日本の指導者不在の政治体制では、20年にわたる経済の低迷に終止符を打ち、地域統合の動きをリードすることは難しい。対照的に中国は、広まる貧富格差と蔓延した政治家の腐敗に起因する国内問題にも関わらず、高い経済成長を維持し、さらに地域統合に影響力を拡大する態勢を整えている。地域のリーダーをめぐる日中のライバル関係と、東シナ海、南シナ海における中国とその周辺国間の海洋境界線をめぐる敵対関係は、アジア地域主義の発展を妨げる深刻な問題である。3月11日、日本の東北地方を襲った地震と津波、それに伴う原子力発電所の災害は、アジア地域の人間の安全保障の保護と促進における地域協力の重要性を強調した。北東アジアにおいては、北朝鮮と韓国、中国、日本、および米国を含む6者協議では北朝鮮の核兵器とミサイル開発に対する解決策を見いだすことができなかった。他方、東南アジアでは、地域の安全保障の対話と協力のためのASEAN中心の枠組み作りが一層強まっている。さらに、2011年12月に心臓発作で金正日が死亡したあと、彼の若い息子である金正恩へ早急に権力が承継されたことは、将来の北朝鮮の政治的安定性と統一問題に深刻な疑問を提起している。
地域統合は、経済、政治、安全保障、そして社会文化的側面を持っており、今号の収録論文はそれらのすべての側面の課題を扱っている。Koga, Larsson, Zhang, Orosa, Cebulakの論文は、2011年8月1日から5日までアジア地域統合のための世界的人材育成拠点(GIARI)とエラスムスムンドゥス- GEM (Globalization, the EU & Multilateralism) PhD Schoolが早稲田大学において共催した「2011地域統合に関するジョイントサマー・インスティテュート」で発表された研究の中から選ばれた。本レビューの編集委員、編集長と副編集長が論文の初稿を読んでコメントをしたあと、著者は査読者とサマー・インスティテュートの参加者からもらったフィードバックをもとに論文を修正した。Koga, Larsson, and Orosaの論文はアジアにおける地域統合の問題に直接焦点を当てているが、LarssonとCebulakの論文はアジアの文脈における地域統合に間接的に関連している。すべての論文は、国際関係、地域統合および国際法のシニアー研究者から提供された理論的な洞察と分析枠組みを、若手研究者が創造的に応用したものである。若手研究者は、東南アジア諸国連合(ASEAN)とASEAN+3(中国、韓国、日本)における多国間安全保障対話と協力の制度化、イランの核プログラムをめぐる中国- EU間の協力の可能性、ASEAN +3における中国の関与、ASEANの人権への取り組み、国際法秩序と国際人権法の開発、について分析を行っている。
今号はまた、アジア太平洋地域における国家貿易政策戦略の変化、アジア経済統合のための制度化、西洋民主主国家からなる大西洋共同体の分裂と地政学的対立の再発の可能性に関する3つの書評も収録している。これらの書評は、地域統合における著名な研究者に賛同する意見だけではなく、批判的な視点も提供している。こういう意味で、本レビューは、地域統合の世代の違う研究者と、世界の異なる地域に焦点を当てたアナリストの間での学術的な対話の場を提供している。
編集長としては、今号のAsian Regional Integration Reviewに提示された分析と書評で議論された研究は、答えより多くの質問を提起していると考える。アジアの主要国間の、時には協力的で時には競合的な関係の複雑で流動的な性質、アジア地域の政治、安全保障、経済問題における多国間協力の緩やかな制度化、さらに、アジアにおける地域主義と地域化の未だ不確実な将来を考えたとき、年齢、アジア・非アジア、学問分野を問わず、地域統合の研究者による厳格な分析が要求される。また、協力と不和の識別可能なパターンを記述、説明する研究や、もしアジア地域のリーダーが、ヨーロッパや北米の、より発展した地域統合のスキームの設計者を模倣するのではなく、肩を並べようとするならば、そのリーダーがもちいる手段についての規範的な課題を検討することが求められる。本レビューがそのような研究を刺激する足掛かりになることを願っている。
最後に、アジア地域統合の将来と課題について私たちの総合的な理解を深めることに貢献した今号の著者、いろいろなアイデアと励ましを下さった編集委員会のメンバー、そして本ジャーナルを発行するために物心ともに支援してくれたGIARIに感謝したい。また、努力を惜しまず編集作業に務めてくれた副編集長のDr. Christian Wirthと編集アシスタントの赤羽光子氏と宮野祥子氏にも心からお礼を申したい。
Contents
Editor's Note
Tsuneo Akaha
Research Articles
- Explaining the Transformation of ASEAN's Security Functions in East Asia: The Cases of ARF and ASEAN+3
Kei Koga - The Security Governance of China and the European Union Towards the Nuclear Program of Iran―Future Security Cooperation Made Possible?
Maria Larsson - ASEAN Plus Three (APT) as a Socializing Environment: China's Approach to the Institutionalization of APT
Jiuan Zhang - ASEAN Integration in Human Rights: Problems and Prospects for Legalization and Institutionalization
Theoben Jerdan C. Orosa - Relations between Legal Orders in Postnational Law: Constitutionalism, Pluralism and the Role of Human Rights
Pola Cebulak
Book Review Essays
- Vinod K. Aggarwal and Seungjoo Lee, eds., Trade Policy in the Asia-Pacific: The Role of Ideas, Interests and Domestic Institutions, New York: Springer, 2011
Hideyuki Miura - Institutions for Regional Integration: Toward an Asian Economic Community, Manila: Asian Development Bank, 2010
Jeet Bahadur Sapkota - Charles A. Kupchan, How Enemies Become Friends: The Sources of Stable Peace, Princeton: Princeton University Press, 2010
Christian Wirth