研究成果

政治・安全保障領域

研究:セミナー・ワークショップ

「東アジア安全保障環境と日中関係」林 暁光(中国共産党中央党校)

2007.11.26

林暁光教授

1954年、北京生まれ。中央党校国際戦略研究所法学政治学研究科博士課程修了、法学博士。中国社会科学院大学院教授(国際関係学)、中共中央党史研究室研究員(中国外交史)。著書に『21世紀的中美日戦略関係』(中央党校出版社,2002年),『日本政府開発援助与中日関係』(世界知識出版社,2003年)、『記録と考証 日中国交正常化・日中平和友好条約締結交渉』(岩波書店、2003年、共著)がある。

開催概要

東アジア国際政治講演シリーズ
グローバルCOEプログラム アジア地域統合のための世界的人材育成拠点 天児慧プロジェクト「内政・外交と地域秩序」

中国共産党中央党校 林暁光教授
「東アジア安全保障環境と日中関係」
日  時: 2007年11月26日(月)2:40〜4:30 p.m.
会  場: 西早稲田キャンパス 19号館 3階 309号室 
使用言語: 日本語および中国語
申  込: 不要、入場自由
主  催: 早稲田大学大学院アジア太平洋研究科、GIARI

参加者: 天児 慧、植木千可子、張望(アジア太平洋研究センター助手)、松村史紀(政治学研究科博士課程、GIARI/RA)、アジア太平洋研究科修士課程院生10 名、一般参加者1 名

報告書等

天児慧プロジェクト「内政・外交と地域秩序」東アジア国際政治講演シリーズ
  • 日時: 2007年11月26日(月) 午後2時40分‐4時30分
  • 場所: 19号館309教室
  • 報告者: 林暁光(中国共産党中央党校教授)
  • 演題: 「東アジア地域国際安全枠組みにおける中日関係:中国の視点から」
  • 参加者: 天児 慧、植木千可子、張望(アジア太平洋研究センター助手)、松村史紀(政治学研究科博士課程、GIARI/RA)、アジア太平洋研究科修士課程院生10名、一般参加者1名

林教授の報告は、中国にとって東アジアをどう捉えるかという大きな枠組みで語られた。全体的に大きく六つの項目に分けられていたが、時間的制約もあり、その内、五つの項目について説明がなされた。

第一の項目は“東アジア地域国際安全枠組み関する観察”と題し、冷戦以後の安全保障に関して、伝統的安全(軍事、政治)と非伝統的安全(人間の安全、食品の安全など)という問題が出てきたことを指摘した。そして、大国間関係(米中日露)と地域内各国間関係(韓国、北朝鮮、モンゴルなど)が混在しているという東アジア地域国際安全の複雑性を呈している。そうした状況下において、東アジア地域の安全確保は可能であるかどうかは、中日両国の安全が大きく影響を与える問題であり、中日関係の順調な発展が中日の安全にとってもプラスになることを指摘した。

第二の項目は“地域安全枠組みの構造”と題し、三つの性質を列挙した。先ず、多層性(多国化)であり、アメリカを最上位に位置づけて、米中日露という四大国間関係の決定性とASEAN・韓国・北朝鮮・モンゴルといった小国作用の特定性を指摘。各国のレベルの違いによりその影響力も異なるが、一方で小国の作用を使って大国間の関係を変えるという一面も持つという。次に、多様性(相違性)であるが、政治制度・イデオロギーなどにより各国間の相違も大きく、その相違性によって四大国の利益目標や戦略、方針が異なることを指摘した。さらに、複雑性であり、利益の相違により各国間の競争が激化し、安全不振が高まっている。しかし、その一方で地域安全の共同利益を守るために対話と協力が必要であるという。

続いて第三の項目は、“安全協力”と題して、いくつかのポイントを述べた。先ず、安全理念を変えることである。中国にとって自国の利益は守るべきだが、他国との共同安全利益も守るべきではないかという考えが出てきており、戦略的相互不信の状態から戦略的相互信頼といった状態への転換が必要であるという。また、安全体制の開放性について、核問題における六カ国協議の枠組みなど、東アジアの安全利益を守るためにアメリカなど地域外の国も含めるべきだと指摘した。次に、安全協力の平等性について、大国・小国間での平等の発言権を確保し、最終的には国連憲章や国際法の準則に則って新しい体制を作るべきだとした。そして、地域安全システムができる前にいくつかのルールを守るべきとした。それは、例えば、武力を使わずに平和的対話により問題を解決するであるとか、どの国も仮想敵国としないといったルールである。さらに協力できる分野として、JIS+2D21テロリスト、民族分裂主義、宗教過激派などの脅威を防ぐ、JIS+2D22海上通路の安全を守る(例:マラッカ海峡の安全確保のための諸国間協力の重要性など)、JIS+2D23軍事協力の強化と相互の国防政策の透明化、JIS+2D24相互安全利益を模索といった点が挙げられた。

第四の項目は、“東アジア地域国際安全枠組みにおける中日関係”と題した。東アジア地域にとって、中日関係は最も重要な両国関係であると考えられ、両国関係の変化が地域安全環境に影響を与えていると指摘。現在、両国は経済貿易の関係がますます緊密になる一方で、安全不信、政治対立、外交摩擦は高まり続けているという正反対の動きの中、東アジア地域国際環境のバランスを守りにくくなっているという。また、逆に東アジア地域安全環境の不確定性が中日関係の変化に影響を及ぼしている一面もあると指摘した(アメリカの安全戦略と軍事力の調整、ナショナリズムの高まり、FTA と東アジア共同体など)。

最後に第五の項目は、“中国の政策的選択肢:地域安全を視点とする”と題した。先ず、朝鮮半島が中国の安全と戦略的利益にとって非常に重要な地域であることを指摘している。それは、地理的にも近隣の国家であり、現在の北朝鮮に対する中国の目標は対話(六カ国協議など)を通じての非核化であるという。また、この北朝鮮問題は、中日両国にとって相互利益があると考えられ、協力が必要であると指摘した。

フロアーとの質疑応答

先ず、天児教授からは、東アジアの安全保障の枠組みにアメリカを組み込むべきだという考え方について、逆に日米同盟に中国を入れるのはどうかという質問が出された。林教授は、アメリカは地域的には東アジアではないが、戦略的には組み込まないと東アジアの問題は何も解決できない、だが、中国は台湾問題もあり日米同盟に入れないだろうと回答。

続いて、日本人学生から、六カ国協議に関してなかなか進展しないが、中国が主導している同会議では北朝鮮問題において中国のカードが重要なのではないか、中国が動くべきではないか、といった質問が出された。これに対して林教授は、必ずしもカードとはならず、北朝鮮は同意しないのではないか、核はアメリカにではなく中日にとって脅威であり、今後も六カ国協議を継続していくべきだと回答。

さらに、植木准教授からは、ここ(朝鮮半島問題)での中国の国益とは何か、地域の安全保障と中国の安全保障は完全に一致しているのか、一致しない部分はどんな部分でどのように解決するのか、といった質問が出された。これに対して林教授は、中国一国の利益については、朝鮮族を中心とした国内での民族問題、中朝、中韓問題にも懸念があるとし、地域の安全保障と中国の安全保障については共同利益があるのか、どのように実現するのかが重要であると回答した。

その他、教員・学生・一般参加者から多数の質問が出され、予定時間まで活発な意見交換が行われた。

(文責:アジア太平洋研究センター助手 長田 洋司)



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