研究成果

大国ロシア復活。グルジア紛争を機に「冷戦に後戻り」を耳にする今日この頃。エネルギー価格高騰により国家財政が潤い、エネルギー外交を積極的に展開するロシア。中国とは領土問題を解決し、「戦略的パートナーシップ」を進め、朝鮮半島の行方に自国の役割を模索するロシア。対日的には、領土問題を抱えながらも経済関係を活発化しつつある。一方日本は、低速経済回復さえも終わろうとしている。また、変動する国際政治の大海で「漂流する」かに見える。

こうした日露の二国間関係はアジア統合にどのような影響を及ぼすのであろうか。この研究会は、日露関係の現状と将来の展望に焦点を当て、アジア統合の将来を検討した。

発表者の間では、冷戦後のロシアはアジアとのより緊密な関係に自国の利益を見出し、これによりロシアのこの地域内での戦略的計算における日本の重要性が増している、という点で合意が見られた。研究会での発表と討論によると、プーチン／メドベデフチームの実用主義（プラグマティズム）からは近隣諸国、特に中国と日本との関係改善が予想され、近い将来、北東アジアにおけるロシアの役割は増大するであろうと見られる。さらに、ロシア政府は自国のエネルギー資源を、重要な収入源として経済的に見ると同時に、同地域における自国の政治的影響力の糧として戦略的にも見ている。しかし、ロシアが経済的、戦略的にその目的を達成できるかどうかは、エネルギ資源、特に石油と天然資源の国際価格と、中国、日本、米国との二国関係によるであろう。日本との関係について、発表者の一人は、ロシア政府の実用主義により、北方領土／南クリール諸島を巡る領土問題の解決の可能性が高められていると指摘した。別の発表者は、中ロ戦略的パートナーシップには限界があり、このためロシアは日本との関係を改善させる必要があると述べた。しかし、別の発表者は、日本の対露路線はこれからも日米同盟関係に大きく左右されるであろうとの意見であった。研究会では、こうした可能性をこれからじっくり見て行く必要がある、という結論に達した。

ポスター:
早稲田大学グローバルＣＯＥ：ＧＩＡＲＩ「政治・安全保障領域」研究部会
「日露関係とアジア統合」研究会[851KB]

日時 : 2008年11月2日（日）
14:00-16:00
場所 : 早稲田大学19号館309教室
一般公開、事前登録不要
（使用言語：英語、日本語併用）
主催:早稲田大学グローバルCOEプログラム
　　 アジア地域統合のための世界的人材育成拠点
Organized by: Waseda University Global COE Program-Global Institute for Asian Regional Integration(GIARI)

司会
赤羽恒雄（米国モントレー国際大学国際政策学教授兼東アジア研究センター所長、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科客員教授 北東アジア国際関係専門）
Introduction / Tsuneo Akaha [7KB]

発表者
Anna Vassilieva（ 米国モントレー国際大学ロシア研究科長 シベリア・極東、北東アジア国際関係専門）
Post-Soviet Chaos, Modernization, and Pragmatism in Russian Foreign Policy: Implications for Russian-Japanese Relations / Anna Vassilieva [4KB]

発表者
高橋浩（社団法人ロシアＮＩＳ貿易会ロシアＮＩＳ経済研究所副所長 日露経済関係専門）
Major Changes in Russian-Japanese Trade and Investment Relations / Hiroshi Takahashi [4KB]

発表者
兵頭慎治（防衛研究所研究部 主任研究官 北東アジア軍事、安全保障問題専門）
The Direction of Japan-Russia Relations and Impact on the Security Aspect of Asian Integration / Shinji Hyodo [4KB]

発表者
鈴木正孝（元参議院議員、元防衛政務次官、米国モントレー国際大学東アジア研究センター上級研究員グローバル・セキュリティー．アナリスト）
Russian-Japanese Security Relations: A Call for Human Contacts / Masataka Suzuki [4KB]