人材育成成果

社会統合とネットワーク

人材育成:支援スキーム:調査研究支援スキーム(学生)

李 賢一 / 調査地域: 韓国 (ソウル・大邱)

2010.01.11

所属: アジア太平洋研究科
学年: 博3
氏名: 李 賢一
日程: 2010年1月11日 - 2010年1月24日

調査地域

韓国 (ソウル・大邱)

リサーチ目的

日本統治下の朝鮮における「植民地医学」を日本側によって設立・運営された官公立医学校を中心に検討し、それのもつ「植民地近代性(colonial modernity)」を究明することである。

そのため、国立ソウル大学校および慶北大学校の医科大学、国立中央・国会図書館において、博士学位論文の作成に必要な一次資料を探す。主に京城医学専門学校および京城帝国大学医学部(ソウル大学校医科大学の前身)、大邱医学専門学校(慶北大学校医科大学へ継承)の学校資料、朝鮮総督府の統計などを求めている。

研究課題

東アジア地域の統合・協力に欠かせない「歴史認識」問題の解決に向け、日本統治下における「植民地医学」を実証的に明らかにすることを試みる。歴史教科書や靖国参拝をめぐる「歴史認識」問題の原因は、近現代史(特に日本側による植民地支配)における偏見の存在と、一方的な視点による歴史の浅い理解にあったのではないかと考える。東アジア諸国が正しい「歴史認識」を共有していくためには、こうした偏見を取り去り、お互いの理解を深めていくことが必要なのではないか。

日本帝国主義によって植民地朝鮮で設立・運営された医学校の事例研究をしている。そのなかで、京城医学専門学校および京城帝国大学医学部、大邱医学専門学校は、重要なケースとして扱う予定である。

本研究は、戦前日本の「外地」で形成・展開された「植民地医学」の持つ両義性(「植民地近代性」)およびその「連続」と「断絶」を実証的に検討し、これまでの東アジア関係史の研究における空白とともにその「歴史認識」の溝をも、少しでも埋めようとする。それによって、「アジアの地域統合・地域協力」にも寄与することができると思われる。

成果

今回の調査・研究支援スキームによって行われた資料調査で、主に京城医学専門学校および京城帝国大学医学部、大邱医学専門学校の資料、朝鮮総督府の統計らを収集することができた。本調査を通じて得られた成果は、以下のようである。
  1. これまで韓国側の研究は、在朝日本人のための植民地施策と断定することは否めない事実である。一方、日本側の研究も朝鮮民衆のために多くの病院や医学校を整備し、医療・衛生の改善に努めたことのみを強調する傾向がある。ところが、こうした断定や憶測の拡大再生産は、「歴史認識」の差異を広げるだけで、今こそこうしたあり方を是正して行かねばならないだろう。
    また植民地支配に関する既存研究の問題点、つまり巨視的かつ長期的な視点の不在や前後との「断絶」を中心にその普遍性や特殊性のみを強調する限界から、時・空間的な「連続性」を探ることで帝国主義の支配原理および方式とともに、それのもつ現在的意味を検討する必要があるという問題意識を深めることができた。
  2. 従来の教育および医療分野は、植民地統治の「プラス」な部分として捉える傾向があった。すなわち、開明した宗主国が未開の植民地に「近代化」をもたらしたという「文明化の使命(mission of civilization)」として宣伝されてきた。しかしその実態は、決してそうではない側面がある。
    「植民地支配」という状況下で帝国(宗主国)のため、植民地権力によって現地人を差別・排除する「植民地主義(colonialism)」が強く存在したのである。その複雑性が、東アジアにおける「歴史認識」問題の発端となるわけである。つまり「歴史認識」問題とは、植民地支配がもたらした「近代性(modernity)」に注目するか、または現地人を抑圧・搾取した「植民地性」を重視するかという二項対立の構造である。
  3. 日本統治下における「植民地医学」から、朝鮮人の入学を制限しながら教官ポストも与えない民族差別の「植民地性」と、近代医学を植民地へ移植してその展開を促す「近代性」という二面性を見つけることができる。
    しかしその両義性をもたらした主体や意図、最終的な受恵者から、「植民地主義」あっての「近代性」という矛盾の因果関係が内在することを念頭に置かねばならない。


事業推進担当者


報告書


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